小林泰三「殺人鬼にまつわる備忘録」
読み切るつもりはなかったんですが、あまりの面白さに一気読みでした。
小林泰三さんは「玩具修理者」、「アリス殺し」などが有名で、作品も多数ありますが、とにかく文章が簡潔で読みやすいのが特徴です。
このお話は田村二吉という、数十分しか記憶を維持できない男が主人公。そのため、生きる上で必要なことを全てノートに書き出し、記憶を無くす度にノートで状況を把握して行動しています。
二吉はとても頭が良くて、記憶を失う度にちゃんとノートを見て状況を把握して、的確に動けるすごい人なんです。
ノートには「今、自分は殺人鬼と戦っている。」と書かれていて、最終的にはその殺人鬼と対決するのだからほんとにすごい!
元々ホラー作家だからということもあり、殺人鬼の殺人描写はほんとに……グロさもさることながら、「殺人鬼、ほんとに許さん!」って気持ちになります。
殺人鬼には特殊な能力があって、他人の記憶を改ざんできるんですけれど、その能力を悪用して平気で殺人を犯す悪の塊のようなヤツなんです。
ほんと毎回出てくる度に胸糞悪いことするので、気付けば全力で主人公を応援しながら一気読みです。
小林泰三さんのお話を読み慣れている方なら、他作品とキャラクターが重複していることに気づくかもしれません。結構そういう遊び心のある作家さんで、ついつい他の作品も読みたくなるんですよね。
今回の主人公も、違う作品「忌憶」の中に登場しています。
それにしても、文句なしに面白かった!
前半の何気ない伏線がラストで爆発して、えー!ってなりましたよ♪
ハラハラドキドキのミステリーが好きな方にオススメの一冊です。
岩波明「文豪はみんな、うつ」
幻冬舎の電子書籍40%OFFクーポンで購入したこの本単行本が出た時は、かなりの話題作でしたよね!
いつの間にか文庫になっていて、更には40%OFFにもなって、買わない理由が無かったです。たまにある40%OFFの時期に、山のように電子書籍を買いがちな私です。
この本は、10人の文豪たちの生涯を一人ひとり振り返り、統合失調症だったのか、躁うつ病だったのか、ただのうつなのかなど分析していく、極めて特殊なアプローチでお話が展開していきます。
普通に考えたら、結構失礼な話なんですよね……自分の生涯を後に分析されて「みおこんぼさん、実はうつでした。」みたいな結論出されるとか、怖すぎる〜。
でも、この本は私結構好きで。
結果的に歴史に名を残した文豪たちが、みんな何かしらアウトローな生活を送っていて、日々悩み、時には希死念慮に取り憑かれ、幻聴も聴こえちゃったりして。
でも、あがいて必死に生きて、最終的には自殺だったり、精神病院で生涯を終えたり、病に冒されて短い人生だったりする……。正に、人間そのものなんですよね。
巻末で岩波さんも仰っているように、今この時代は、とにかく異物を排除しようとするきらいがあります。
なのに、多様性を認めよう!みたいな真逆の思想が世にはびこるわけで。下手すると、異物を排除しておきながら、多様性を認めろ!と声高に言う人も結構いたりして……なかなか難しい社会になってます。
文豪という「異能」を認めて、支える社会の醸成が望まれるのですが、令和の時代になって益々難しさを肌で感じている今日この頃です。
話が逸れましたが、この本は現代社会との対比という視点で見ても興味深かったです。
しかし、文豪たちの凄いところは行動力ですよ……。なんのツテもないのに、勉学のために単身海外に行けちゃうところ、尊敬しかないです。当時は船でしょう?いや、凄いわ。
個人的には島田清次郎さんが印象的でした。非常に傲慢且つ尊大な自己を持ち、とにかく嫌われ、社会に袋叩きにあって精神を病み、若くして亡くなった文豪。「地上」は、今読んでも読み応えある名作なんですけどね。
文豪の生き方や、精神世界に興味のある方にオススメの一冊です。
筒井康隆「私のグランパ」
筒井康隆さんといえば、代表作が「時をかける少女」だからか、SF作家さんである印象が強いですよね。
この本は筒井康隆さんのSFではない有名作品とネットで紹介されていたので、購入してみました。なんと石原さとみさんのデビュー映画の原作だそうです。
映画観たことある方いますかね。
読み始めて驚いたのですが、とにかく文体が美しく流れるように読めました。読みやす過ぎて30分くらいで読めちゃいました……あっという間。
巻末の久世光彦さんの解説で、「声に出して読みたい小説」と言われているのがよくわかりました。確かに、朗読にぴったりかもしれません。突っ掛からずに読めます。すごい!
お話自体も明確な構成でわかりやすく、主人公の周りに出てくる問題を刑務所上がりのグランパが解決してくれるお話です。グランパの落ち着いた雰囲気に、なんでも解決してくれそうな説得力を感じ、何が起きても安心して読み進むことができます。
これからどんなふうに話が膨らむのかな、というところで唐突な最終章……衝撃的でした。文句なしに良い話なので、欲を言えばもう少し長いお話にしても良かったなぁ。
筒井康隆さんも、いつの間にかかなりのご高齢なのですよね。89歳か。私にはまだまだ想像もつかない世界にいらっしゃる。私も長生きして、好きな文章たくさん書きたいと思います。そして89歳になったら、「あの時わからなかった世界に、私はいるのね。」と、これを書いている自分を思い出してニヤニヤしたいです。
とにかく読みやすい小説を探している方に、オススメの1冊です。
最近このブログに読書記録書き忘れが多いので、気をつけたいです。他のところでも書いていて、数冊こっちに移し漏れている……。
「3分で殺す!不連続な25 の殺人」
今やすっかりお馴染み、◯分で〜な話の文庫本です。
この宝島社文庫のショートショート集は結構好きで、特にオススメは「5分で凍る!ぞっとする怖い話」ですが、他のも面白くてオススメですよ。
新刊が出ていたので、書店で購入しました。
今回は、殺人がテーマのお話。それにしても、3分で殺す!のパワーワードよ。
このシリーズ、どのショートショートもそれなりに有名作家さんが書いているのでハズレがないのが嬉しいのです♪
最初の話と最後の話は、やはり1番インパクトがありました。1話目の切なさと、25話目の怖さ、どちらも良かったな。
25話目は海堂尊さんだったのですが、なんと!海堂尊さんらしからぬホラー路線!ホラー好きな私は歓喜でした。
あ、ちなみに1話目は中山七里さんらしい、最後の一文に胸がギュッとなるお話でした。
3分で読めるショートショートが25話、ということでスキマ時間にもサッと読めて、ながら作業にも組み込める良作です。
変わり種も結構あって、ファンタジーだったり、純ミステリーだったり、多種多様なお話が味わえて大満足でした。
こういう沢山の作家さんに出会える本って、企画としてとてもいいなと思っていて。
ショートショートで面白いと感じたお話の作家さんをチェックして、その作家さんの他の作品も読んみるという流れができるじゃないですか。読書を広げるきっかけになるから良いですよね!
秋の夜長に、読書を広げるきっかけになるかもしれない1冊。オススメです。
秋吉理香子「暗黒女子」
秋吉理香子「暗黒女子」読了。
10年前の作品なんですが、私10年前になんでこの本を読んでないんだろう……と思うくらい私好みのテイストでした。
読みやすいので小一時間で一気読みでしたが、最後まで読んだら「キャー!!嘘でしょ!?怖過ぎ!」ってなりました。
タイトルが「暗黒女子」なだけあって、出てくる少女がみんな腹黒いの。
死んだ〈白石いつみ〉について、一人ひとりがその死の真相と犯人を小説にして朗読する会が開かれるんですが……なんと!お話で明かされる犯人がみんなそれぞれ違う。
一体誰が本当のことを言っているのか。
果たして〈白石いつみ〉を殺したのは誰か。
衝撃のラストはもう、狂気としか言いようがなかったです。
あと個人的にこのお話は、「マリア様がみてる」のような美しさがあると思います。(マリア様がみてる大好きです!)
聖母マリア女子高等学院で、とびきり特別な文学サークル。選ばれたものだけが集まる、とにかく美しい空間。前半はもう、ブランド物の話から文学の話からとにかく美しいものが並んで、ため息が出るほど素敵なの。
この描写だけでも知らないブランドを調べたりして勉強になりました。
特にゲランのミュゲは、その香りを知りたいと思いました。
このお話、実は映画化や漫画化もされているみたいなのですけれど。
多分この手の話は小説が1番なんじゃないかなぁ……でも映画、ちょっと気になる。
少女たちの美しい世界観が好きな人、衝撃のラストで戦慄したい人にオススメな1冊。
杉井光「世界でいちばん透きとおった物語」
読書記録久しぶりだったかもしれませんね。
最近インプットよりアウトプット期間に入っているみたいで、書くほうが止まらず……ついに友人からは書くペースが化物とまで言われてしまいました。
個人的な話で恐縮ですが、インプットとアウトプットは波があるので、たまにこうなります。
本題ですがこの本は、書店で「電子書籍化絶対不可能!?紙の本でしか体験できない感動!」というPOPに惹かれて購入した話題作です。
平積みが数日で薄くなっていたので、今が旬の売れ筋書籍なんだと思います。
そしてこれは、ほんとにネタバレ厳禁の作品なんです!
私も最後まで読んで、「これはやられたわ。ほんとに凄いわ。唯一無二だわ。」って脱帽でしたよ。
ある意味究極の推理小説ですね。
普通の人はどこでこの小説のトリックに気付くだろうか……伏線はいたるところに張られています。
ちなみに実は私、3分の1くらい読んだところで気付いてました。私もちょっと、このお話の主人公みたいなところがあるみたいで……。
それにしてもほんとに凄いわ(大事なことだから2回言います)。
帯にある北村薫さんの、
「 」の謎が解けたとき、完結する透きとおった物語。
って一文がこのお話の全てを物語ってます。
最後に全てわかった時の衝撃を楽しむ新しい本ですね。間違いなく文句なしのベストアイデア賞です。
気になった人、みんな読むべき1冊。
北山猛邦「先生、大事なものが盗まれました」
昔なんとなく買って読み逃していた本でしたが、なんとなく読んでみました。
北山猛邦さんって、メフィスト作家だし一癖あるとは思っていたけれど、とにかく物凄い発想力だなと……感嘆のひとこと。
何が盗まれたのかを推理する小説っていうのが新しいのです。
ファンタジー要素は強いけれど、世界観は現実世界寄りという不思議なお話でした。
そして衝撃のラスト!「続く。」
いや、まあ、お話的には短編が3つ入ってる感じだからキリは良いけれど、謎が深まってこれからって時に「続く。」
この本は2016年に書かれたものだから、7年経っているし、続編あるでしょ?と思って調べたらまさかの続編がない。
まだ作者さんはお若い方だし、きっとこれから続編あるのよね?まさか、江戸川乱歩の「悪霊」みたいなことにはならないですよね?
正直、めちゃくちゃ続きが気になるんですけど……。2016年から待ってる人がいると思うので、にわか読者の私が騒ぐのはなんだか申し訳ないです。でも言います!続きを読みたいです!
気長に待ってます。
このお話は、キャラ立ちがとても良くて、個人的にはヨサリ先生がとても好き。
ヨサリ先生を表した言葉がとても印象的だったので紹介です。
〈厭世的に見えて人懐っこく――虚無的に見えて楽しげで――それはたぶん孤独に折り合いをつけた人が辿り着く生き方じゃないかと思う。〉
これ、めちゃくちゃ良いなと思ったんですよね。
風変わりなミステリーに出会いたい方、続きを気長に待てる方にオススメな1冊です♪