八目迷「夏へのトンネル、さよならの出口」
これはもう、くっかさんのイラストが購入の決め手でした。これぞジャケ買い。
結果、面白くて大満足でした!
このお話は、第十三回小学館ライトノベル大賞のガガガ賞と審査員特別賞を受賞した作品(2019年)だそうで、納得の素晴らしい読後感です!
八目迷さんのデビュー作となってます。
青春&ファンタジー&都市伝説の組み合わせが面白くないわけが無い。
何よりこの作中に出てくる「ウラシマトンネル」、私の大好きなSCPみたいな要素が満載なのです。(あ、SCP財団を知らない方はスルーで大丈夫です。)作者について調べてみたら、やっぱりSCP財団が好きな方らしくて、これも納得でした。
ところどころ素敵な言葉が出てきて、それも良いのです。
主人公がヒロインに宛てた手紙にある言葉が、個人的に印象的だったので、書いておきます。
「普通に頑張れ。誰にでもできて、誰にも褒められず、誰にも同情されない。そういう普通を永遠と地道に積み重ねた上に、特別はあるんだよ。君なら、それに辿り着ける。」
キャラクターがまた良くて、ヒロインが躊躇わず人を殴るシーンがたまらなく好きで、相変わらず私はこういうのに弱いんだよなぁ……と、再認識。
ある一定のラインを超えたら躊躇わない。自分の軸がはっきりしていて、強い(物理)ヒロイン。ツボなんです。
小一時間で読めるし、時間を忘れて読めるお話です。
作者自身も、〈読者を物語に引きずり込むような、重力のある小説を書きたいと思っている〉とあとがきで言っていましたが、書けていると思います!オススメです。
澤村伊智「アウターQ 弱小Webマガジンの事件簿」
ブックオフ物色中に見つけた澤村伊智さんのミステリー!わりと最近文庫本になった1冊ですが、もう中古で出回るのかと衝撃を受けつつ購入。
ブックオフって毎月29日にアプリ会員限定の300円クーポンが出るので、大体28日に物色しておいて29日に購入するんですけれど……思わず待たずに購入してしまいました。
うん、明日は300円クーポンを使って別のを買おう♪
澤村伊智さんについては、もう何度も熱く語っているため今回は割愛して読書感想へ。
ミステリーは初めてだよなぁと読み始めましたが、うん、やっぱり澤村伊智さんらしくホラー要素もバッチリ混ざっていました。ホラーが大好きなので、面白くてあっと言う間に読んでしまいましたよ。
ミステリー連作短編集ということで、7つのお話が詰まっています。7つのお話が実は全部繋がっていて、最後に伏線が全部回収されてのネタ明かし……この構成力がさすがでした。
個人的には「歌うハンバーガー」が良かったなぁと思っていたら、巻末解説で小説家の阿津川辰海さんも「1番好き」と言っていて驚き。「ですよね!」と思わず頷いてしまいました。癖はあるけれど、「歌うハンバーガー」はホラーのオチがしっかりしていて良かったのです。(このお話はあまりミステリーぽくない。)
最後のどんでん返しには、「反則でしょ?」と思いながら、振り返ると確かにそんな描写あったなぁと納得。このお話、練馬ねり(地下アイドル)というキャラがうまいこと探偵役をやってくれましたが、澤村伊智さんの作品によく出てくるタイプの女の子でした。
やはり作家らしさは作品に浮かぶなぁ……。
ミステリーとホラーってアプローチの仕方が似てるよなぁと感心しながら読みました。
だから親和性バッチリなの。
とても読みやすかったです♪
ホラーもミステリーも好きな方に、オススメの1冊。
よしもとばなな「日々の考え」
よしもとばななさんといえば、「キッチン」と「TUGUMI」と「アムリタ」ですよね。
この3作品どれも印象的でした。
実は最近の著作はあまりチェックしていなくて……電子書籍物色中にエッセイ集を見つけて、思わず購入しました。
素晴らしい作品を書く作者が日々どんな生活を送って、どんなこと考えているのかなぁというのにはやはり興味があります。
さくらももこさんのエッセイが今のところ断トツで好きです。
よしもとばななさんは、エッセイを見るとなかなかエキセントリックな方。
文章から滲み出る勢い、潔さ、前向きに生きる気持ちにほっこりしました。
個人的には、陸亀を飼育しているお話がとても好きです。5キロの亀とか、家にいたら楽しいだろうなぁ。お世話は大変そうだけれど。
あと、このエッセイで知ったのですが伊豆アンディランドっていう亀専門の水族館があるんですか!?行ってみたいです。亀大好きなんですよね。
実はこのエッセイ集、なかなか際どい下品ネタがいっぱいあります。でもテンポよく読めるし不快にもならないし、やっぱり文章がうまいんだよなぁ……。
よしもとばななさんの人柄に触れたい方に、オススメな1冊。
隙間時間で少しずつ読み進めると、いつの間にか読み終わっている、読みやすさ満点な本です。
佐々涼子「エンジェルフライト 国際霊柩送還士」
ノンフィクションのルポルタージュは、どうにもなかなか読み進められないことが多く、これもスローペースで読み終わりました。
だって、いちいち泣いてしまうんです。
こんなことが世界で、本当に起きている出来事なんだって……死は、これほどまでに身近なんだって、思い知らされるんですよ。
「おくりびと」とはまた全然違う、死に向き合い、寄り添う仕事。一つひとつの話が、どうしようもなく切なくて。
幼い子どもを日本で突然亡くしたご夫婦のために、旦那さんの故郷であるフランスにご遺体を運ぶ話は特にリアルで、苦しかったです。
ご遺体に丁寧なエンバーミングを施してフランスまで運び、フランスでもその死を親族で充分に悼むことができたエピソードは、本当に尊かったな。
衝撃的なお話が多すぎて……エンバーミングで、ご遺体に魂が戻るかのように錯覚するくだりは、美しさすら感じました。
酷く傷んだご遺体を生前の姿に引き寄せる……その技術は、神がかっています。
印象的だったのは、遺族への寄り添い方です。
「慰めたり同情したりするのって、どこか上から目線でしょう?同情する人たちには幸せなところから、かわいそうな人を救ってあげるという雰囲気を感じてしまう。」という言葉が強く残りました。だからただ、黙って寄り添う。必要なものを手渡すだけ。悲しみを充分に悲しめるように。大事な姿勢だなぁと思いました。
このお話、米倉涼子さん主演でドラマ化されているみたいなんですが、めちゃくちゃ見たかったです。ネトフリで見られるようにして欲しい……。
死について考えさせられる良作。
ある程度気持ちに余裕がないと読み進めるのがつらくなりますが、文句なしにオススメです。
織守きょうや「霊感検定」
あらすじに誤字を見つけて、気になって購入した1冊。
〈癒し系青春ホラー〉とはどんなものか興味津津で読み進めましたが、なるほど確かに!と納得しました。
織守きょうやさんの本は、「記憶屋」が有名ですよね。わりと最近映画化されていたような気がします。
あの、山田涼介さんが主演で、辻村深月さんの「ツナグ」の映画と同じ監督が手掛けた作品……「記憶屋」は読んだはずなのに内容をすっかり忘れたので、あとでネトフリで映画見ようと思いました。
織守きょうやさんの経歴を初めて拝見したのですが、弁護士さんなんですね。弁護士さんの書く小説って独特な雰囲気なのでなんとなくわかるのですが、「霊感検定」はそれを全く感じさせなかったです。軽い読み口で、サクサク読めました。
お話の内容は、霊感のある少年少女と、全く霊感の無い少年が所属する「霊研」が、成仏できない霊のために活躍するというもの。顧問の馬渡は、霊感があるかないかを判定する「霊感検定」を作成する変わり者で、キャラ立ちがとても良いです。
最終話では、ほんのりシックスセンスのようなオチがありつつも、ハッピーエンドでほっこり。読後感が爽やかでとても良かったです。
そして最後に著者紹介文をゆっくり見て(映画のエンドロールを見る感覚で見ちゃう)、「続編あるの!?」となりました。顧問の馬渡が推しなので、今度読もうかな。思いがけず続編があると嬉しいですよね。
〈癒し系青春ホラー〉に興味のある方に、オススメの1冊。
岩井俊二「キリエのうた」
映画化が決まっているお話を先に原作で読むかどうかって迷う人も多いと思いますが、私はわりと読んでしまいます。
たまたま読んでいたのが後にメディアミックスしてアニメ化や映画化した、というパターンもあるあるですよね。
「キリエのうた」は、秋に映画公開を予定されているお話です。
前に紹介した「アリスとテレスのまぼろし工場」も、今公開中みたいですね。見に行きたいなぁ……。
岩井俊二さんの作品は、映画代表作の「スワロウテイル」をよく覚えています。あれも歌が印象的でした。
「キリエのうた」は、お話に東日本大震災が出てきます。復興支援ソングの「花は咲く」の歌詞を書いたのが、岩井俊二さんです。東日本大震災を書く、というのは、おそらく強い気持ちがあるからこそ。言葉の端々にそれが滲んでいたように思います。
歌手がうたを歌うシーンが沢山出てくるお話なので、やはり映画で観たくなりました。作中で出てくる歌に、どう説得力をもたせるのか興味があります。
主人公キリエの路上ライブシーンは、文字なのになんだかメロディーが浮かぶような、不思議な感覚でした。「実際に聴いてみたい!」と思わせる力ありましたよ。
キリエが作曲したオリジナルの歌も、どんなメロディーなのか気になります。うん、映画に行こう。
文体がとても読みやすく、小一時間でサラサラ読めました。キリエが歌うシーンの歌詞は、思わず何度も目で追いました。歌詞が素敵だったから、きっと映画も期待できるはず!
映画を勧めたくなる1冊でした。
あ、10月13日公開みたいです。
有栖川有栖「作家小説」
たまには有名どころを読んでおこうと電子書籍を物色して、一番に目に入った有栖川有栖さんの本を購入。
有栖川有栖さんといえば、本格ミステリ!ということで、この本もそうなのかと思いましたが全然違いました。
この本はタイトルそのまま〈作家〉を物語の中心に置いた短編が8つ入った小説です。
作中様々な作家さんが出てきますが、個人的には「書く機械」「締切二日前」の主人公が好きです。〈作家〉の狂気がリアルに感じられて良き。
「サイン会の憂鬱」は、有栖川有栖さんらしいなぁと思いました。コミカルな流れで始まり、最後にはゾッとする結末……このひっくり返しが上手なんですよね。
やはりミステリ作家の性なのか、殺人事件は起きがちでした。犯人が明かされるまでの推理も楽しめましたよ。
それにしても〈作家〉って、命を削る職業だよなぁとお話を読んで改めて感じました。
書き物って不思議なもので、仕事にすると途端に筆が進まなかったりするんです。
継続して書き続けることが1番難しいところかもしれません。
インプットをどうアウトプットに繋げるかも大事ですよね。
個人的には、完璧じゃなくていいからまず最後まで書き上げることが大事だと思っています。
書き物をする人は、どうしても完璧を最初から目指しがち……。
様々な〈作家〉を巡ってのお話が読めて、お得な1冊でした。